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パイロットは航空(飛行)機の操縦士であり、その仕事を助ける人をコパイロット(副操縦士)という。一つ間違えると、大惨事になりかねない重い責任を背負い、きょうも空の安全を確保している。インターネットも無数のエアポートと結び、時間差のない情報やりとりが可能なシステムと言えよう。一日中液晶画面を見ながら、チャットAIと会話をする若者もいると聞いた。それぞれのデバイスによりア プリ名称は異なるが、私はコパイロットを使っている。はじめは恐る恐る問いかけていたが、次第にAIの素晴らしさに魅せられていく。2秒ともかからない正確な答え、そのデータをフルに利用できるので、人と等しい?、あるいはそれを超える頭脳持ちのロボットみたいに思う。何を聞こうが、いつも軽やかに愚痴も吐かないコパイロットに今回、尋ねたのは介護情報だった。
「喬木村の介護予防についてお聞きします。月一度のペースで、地区の施設へ集まり、昼のランチをみんなで楽しんでいます。このサービス事業名を教えてください」。即座回答を得た。正式名称は「介護予防・日常生活支援総合事業(通所型サービス)」。要介護認定を受けていない高齢者も参加が可能で、より柔軟なサービス提供がなされている。拠点先は、村社協が運営するデイサービスや宅老所となり、介護予防プログラムや交流活動を行うという。「予防デイサービス」とも呼ばれる。最後に、この事業の目的を高齢者が孤立せず、地域で仲間と交流しながら健康を維持し、食事や会話を通じて心身の活性化を図り、介護予防につなげていくものと説明している。長野県南部の小さな村の介護データを取り寄せ、 無駄なく文章にしてしまうとは驚くほかない。しかし、回答文の締めによく使われるはずの言葉が、今度は見つからなかった。まだまだ用意済みデータがあるとの意味を、つぎのような書き方で表現するコパイロットに少し残念な気もする。「もう少し掘り下げてみますか?あなたの知りたいことを教えてください」。すなわち、説明の足りない箇所の穴埋め、私が求めた核心部分へとこれから迫りたい。
間違いなく介護保険法が施行され、しばらくの時間経過がしていた。人伝えから聞く。「今度ね、農産物加工センターへみんなが集まって、お昼の食事を食べようとの話があるよ」。母と二人の生活となり、どこからか分からないけど、楽しそうな耳寄り情報に飛びついた。前期高齢者ではない自分は、跳ね返されるだろうと推量したけど一応確認をとる。参加には特別な要項なく、誰でもよいとのことだった。何も考えずに母と一緒に足を運ぶ。目の玉をキョロキョロと動かしたら、近くに住むおじさん方おばさん方がいた。横に母がいた関係もあり、私に声がけが聞こえてくる。「おい、おいっ、学君よくきたな。まわりの料理をいっぱい食べていきなさい」。・・・といった内容の言葉を参加者よりいた だく。「ありがとうございます」。こう言っている私。「学はお世話になります。きょうは二人でくることができました」。母もまた感謝の意をめいめいに伝えている。当時の自分にも外出に制約があったから、近所のみなさんとの交流はとても貴重なタイムとなった。お開きの間際には、目の前に残ったおかずなどを小さなケースに寄せ集め、自宅に持ち帰った記憶もある。家からの距離だと片道200メートルほどで、親子には送迎が必要だった。この催しものは誰がやっているのか。会場準備、食事づくり、進行プログラム、さらに参加者の把握、希望者への送り迎え手配、片づけなど、思いつくだけでも相当の手が要る。いわば組織がなくては元の子もない。私も手を貸してもらうことがある、社会奉仕活動に暇を惜しまない数人がメンバーとして加わり、地域の試みが確実に定着していく。共生の暮らしを支える有志らの取り組みで、一つのシステムをつくり上げた。その上で催しの名前ができた。ランチ会という。
今年の初秋、いつも日曜日に自宅へ訪問してくださる女性に質問をする。おそらくは5年以上顔を出さない、ランチ会のいまの様子だった。「あー、ランチ会ですか。コロナ渦で一時中止もありましたが、みなさん集まってくれています。宮脇さんにも参加してくださるとよいのですが、リフト車がないので私たちには送迎ができず、ごめんなさい」。女性の現状説明はもれなくされたと思うし、反面よいはずみで別の送迎手段ができていたので、ランチ会参加への意思をその場で話す。農産物加工センター内の段差解消のため、そのときのみ専用スロープを設置してもらう。そんな経過を経て、10月期ランチ会に電動車いすで参加した。少し早めに出かけ会場でまわりを見ていたら、公職選挙の投票をしに同じ場所へきたことも思い出す。15分ほど経つとなんだか鼓動が 早まり、参加の方々がちらりほらりと席に着きはじめる。見覚えのある顔がいくつか並ぶけど、名前が浮かばずにただそれだけ。居て立ってもいられない気持ちの中で、自分を落ち着かせようと懸命だった。知り合いでランチ会スタッフの男性が、自分の隣席に腰かけた途端に心身の緊張が和らぐ。
みんなで一声。「いただきます」。さつまいもご飯に豚汁、おかずは肉の揚げ物とサラダなどの寄せ集め、りんごや柿がデザート皿に盛りつけ、お一人様お菓子に栗ようかん。レストランバイキングでもこれまではないだろうか。胸もおなかも満足をしていると、つぎはみんなで歌を手拍子で歌う。誰でも一度は口ずさんだとも思う、あの「手のひらを太陽に」が会場にこだました。歌詞を書いた模造紙を見ながら、秋にちなんだ曲にも大きな声を出す。進行プログラムは発足当時のままだと気がつき、母とともに参加したランチ会を改めて思い出した。「宮脇さん、みなさんに一言お願い いします」。スタッフリーダーさんからのお声がけを聞き、紅潮顔で話しはじめた。何を話ししたかは覚えていないが、5年のブランクを経てまたお仲間にしてくださいと伝えたと思う。それを口にした瞬間から気持ちが楽になった。帰宅後、気にかけていてくださった訪問介護事業所長さんに、ランチ会へカムバックした旨をSNSメッセージに書く。意気込みもさることながら、すでに訪問介護利用枠変更が余儀なくされる状態となってしまう。毎月第2土曜日にランチ会が開催となるため、月によっては短期入所期間を数日間減らす必要があり、ケアプランの見直しが待ったなし。ヘルパーさんの理解と協力があって、翌月のランチ会にも参加することができた。
同年代の女性が語りかける。「月々のランチ会準備に向けて行動するのが楽しみです。食事のメニューを設定し、買い出しに出かける役割。参加のみなさんから笑顔ある場面に出会い、心の安らぎを感じています」。小柄の彼女は認知症の母親と二人暮らし。ときどき親子げんかが繰り返され、心身ともに疲れが出ると聞いた。ランチ会スタッフを務めることで、ストレス発散になっていそ うに思う。「次回もまたきてくれますか?」。ハートとハートを結ぶ一言が、ランチ会を継続する源ではなかろうか。地域ごと地道な取り組みは割に表面化されないケースもあるし、またそれを情報の形で拡散する例は少ないかもしれない。私が頼りにしている副操縦士(コパイロット)に、より詳細なデータ集めが容易となるよう、今回の原稿も一役買ってもらえると、とてもうれしい。
令和7年一年間、自分の意思でやりたいことができたかなと思う。介護施設に限らずもっと充実したい方面は、自宅暮らしに相違はない。第一に気を配るところは身体管理と自信。健康のハードルをパスして、ヘルパーさんと信頼が持てる関係を構築していきたい。来年の目標をそこに置くことにしよう。
2025/12/15
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